● INTERVIEW
株式会社石渡商店
常務取締役専務 石渡久師さま
Q : 石渡商店では平成25年7月から気仙沼湾で獲れた牡蠣を使ったオイスターソースを販売し、今では年間15万本を売り上げる人気商品になっています。まずは開発の経緯についてお聞かせください。
石渡 : 当社では昭和32年から気仙沼名物のふかひれ加工を手がけています。中華料理の食材として使われていたふかひれを和食用に展開したほか、レトルトや缶詰の技術を取り入れてふかひれスープを一般家庭に通販するなどして、マーケットを広げてきました。
ふかひれ一筋の私たちがオイスターソースを開発するきっかけとなったのは東日本大震災です。当社の工場も津波によって全壊しました。祖父の代から築き上げてきた工場が流出してしまい、父はがっくりと肩を落としていました。しかし、ふかひれは気仙沼の基幹産業です。その歴史をここで終わりにするわけにはいきません。気持ちを奮い立たせて再建に取り組み、気仙沼のふかひれ加工業者の中で最も早く、震災翌年の10月に高台の土地で新工場を稼働させました。
Q : 再建までには想像を絶するご苦労があったと思います。そこからどのようにオイスターソースが誕生したのでしょうか。
石渡 : 工場が軌道に乗った頃、再建時に出資してくれた人たちに、なぜ手を貸してくれたのか、アンケートをお願いしたんです。すると9割以上の方から「気仙沼の水産業のため」という答えが返ってきました。当社だけでなく、気仙沼の水産業全体を元気づけたい。そんな思いを感じて、気仙沼の水産物を活用して新商品を作るなど、生産者にとってプラスになることをやろうと、ふかひれ料理にも使われるオイスターソースの開発を思い立ちました。気仙沼市唐桑地区は良質な牡蠣の産地です。中でも3月から5月に獲れる栄養たっぷりの牡蠣だけを丸ごと酵素分解してエキス化しています。子どもにも安心して食べてほしいので、化学調味料や保存料も使っていません。
また、震災後の自社のブランディングや経営力の基盤を強化していくためにも、地元素材を使った高付加価値商品を新たな柱として育てたいとの思いもありました。
Q : オイスターソースの製造工程は、高澤品質管理研究所のサポートを受け、平成29年9月にSGS-HACCP認証を取得しました。そのきっかけや狙いを教えてください。
石渡 : オイスターソースはテレビで取り上げられたこともあって順調に売り上げが伸び、海外からも注文が舞い込むようになりました。その一環としてインドネシアへ輸出する商談を進めていた際、現地で法改正が行われ、HACCPが必要になったのです。ちょうどその頃、公益財団法人みやぎ産業振興機構が主催する食品衛生管理セミナーに参加し、講師を務めていた高澤品質管理研究所の高澤所長と知り合いました。一口にHACCPと言ってもさまざまな情報が飛び交っていて、何が正しいのか分からなかったのですが、高澤所長は国の関係機関との距離も近く、安心してお任せできると思い、コンサルティングをお願いすることにしました。
Q : その後の取り組みを聞かせてください。
石渡 : 平成29年1月から月に1度、高澤品質管理研究所さんの指導を受けながら取り組みました。コンサルティング費用に関しては、みやぎ産業振興機構の専門家派遣事業を活用し、8カ月後のHACCP認証取得を目指して活動を始めました。
具体的には、まずHACCPを効果的に機能させるには衛生管理の土台となる5Sが重要であることを学び、5SチームとHACCPチームを立ち上げ、その両輪を回すかたちで進めました。
担当 : 当初は5Sに関して、改善しなければいけないところがたくさんある状況でした。しかし、2カ月、3カ月とたつうち、社員の皆さんのやる気も改善のスピードもぐんとアップしました。
石渡 : 5Sという言葉を知っていても、改善方法が分からなかったのですが、高澤品質管理研究所さんから具体的で的確に指導してもらい、やり方が分かってくると、どんどん面白くなって、みるみる工場がきれいになりました。その結果、今まで通れなかったところが通れるようになったり、ものを置く場所を決めたので探す手間がなくなったりと、仕事の効率化も進みました。
担当 : 5Sに付随する清掃・洗浄マニュアルなどの作成では、パソコンの得意な社員の方が手順ごとの写真を添えて、誰が見ても分かりやすいものを作ってくれました。中小企業でここまでのマニュアルを作るところはなかなかありませんから、驚きましたね。
5S活動がある程度進むと次はいよいよHACCPプランの作成です。重要管理点には異物をフィルターで取り除く工程とレトルト殺菌の2点に設定しました。
石渡 : 危害要因(ハザード)を分析するにあたって「起こりうるハザードは既に皆さんの頭の中にある」と言われたことが印象に残っています。
担当 : どの食品工場も日常行っている作業の中でハザードを取り除いているはずです。それを文書化し、しっかり排除できているか科学的に証明するのがHACCPですから、そのようにお話ししました。HACCPと聞くと面倒で難しく感じるかもしれませんが、決して新たな設備や作業が必要なわけではありません。今まで通りでも十分なのです。
石渡 : 確かに当社でもフィルターのバックアップを用意したことを除けば、新たな設備投資はありません。認証取得に伴ってコストが増えたとすれば、毎年の検査費用くらいでしょうか。
Q : 当初の目標を達成し、平成29年9月にHACCP認証を取得しました。
担当 : HACCP認証の取得には最短でも1年ほどかかるのが一般的ですから、8カ月での取得はとても早い方です。社員の皆さんの熱心な取り組みの成果だと思います。
石渡 : 誰かがちょっとでもさぼっていたら、難しかったかもしれませんね。品質管理部門のリーダーがしっかりとスケジュール管理をしてくれた上、大きな課題に対してはクリアすべきことをかみ砕いて細分化し、着実に前進できた点も良かったのだと思います。
担当 : 認証機関は海外で知名度の高いSGSをおすすめしました。
石渡 : インドネシアと商談を進めるほか、既に香港、台湾、シンガポール、オーストラリアにオイスターソースを輸出していますが、どの国でもSGSの認知度は高く、輸出先の企業も安心して取引してくれていると実感します。食の安全に対するお墨付きとしてはもちろん、HACCPプランを英訳すれば輸出入の書類としても使えるので、すごく役立っています。
Q : 今後の抱負を聞かせてください。
石渡 : 今回の活動を通じて会社の中身ががらりと変わった気がします。衛生管理に対する社員の感度が高まり、例えばゴミが落ちているのを見つけたらすぐに拾うなど、能動的に動けるようになってきました。今後はタイミングを見て、オイスターソース以外の商品に関してもHACCP認証取得にチャレンジしたいと思っています。
石渡商店 ホームページはこちら
https://www.ishiwatashoten.co.jp/
● VOICE
公益財団法人みやぎ産業振興機構コーディネーター(水産加工業ビジネス支援担当)
笠原恵介さん
みやぎ産業振興機構では、東日本大震災で大きなダメージを受けた水産加工企業の再生・復興を後押しするため「企業グループによる経営研究支援」「生産性改善支援」「専門家派遣」という3つの柱で支援を行っています。当機構の支援策を活用してHACCP認証を取得し、海外への販路開拓につなげた石渡商店さんの取り組みはまさにモデル事例であり、我々としても大変うれしく思っています。こうした素晴らしい事例が多く誕生するよう、SGSを含むHACCP認証取得を支援していきます。