● CASE.09

「揚げ浜式製塩法」でHACCP認証取得
個性と能力を生かしたチームが原動力に
安全安心な能登の塩を世界へ!

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● INTERVIEW

株式会社Ante(アンテ)

株式会社Ante 代表取締役社長
中己出 理さま

株式会社Ante 営業部長/企画販売部長
濱田 和也さま

株式会社Ante 製塩事業部マネージャー
西花 優希さま

株式会社Ante 広報
磯野 裕美子さま
Q : 塩田に海水をまき、塩がついた砂に海水をかけて濃い塩水を作り、釜で炊いて塩に仕上げる「揚げ浜式製塩法」。500年以上前から奥能登に伝わる製法で、世界農業遺産「能登の里山里海」を構成する地域資源の一つです。
Ante様ではこの揚げ浜式製塩法で製造する塩について、2022年8月にHACCPの認証を取得されました。そのきっかけについてお聞かせください。

中巳出 : 当社では、石川の農産物や伝統技術を利用した商品開発を通じて地域に貢献することを企業理念に掲げ、事業展開しています。揚げ浜式製塩法による塩作りを始めたのは2017年のことです。当初からHACCP認証を取得したいと思っていたのですが、密閉された空間で作るわけではありませんし、専門家に尋ねても「難しい」と言われるばかりで、諦めていました。 そのため、海水を特殊なフィルターでろ過し、マイクロプラスチックなどの異物を取り除いてから塩作りに使ったり、灰が混入しないよう釜場を遮蔽したりするなど、私たちに考えられる方法で安全安心を守る取り組みをしてきました。

髙澤 : 加賀市にある本社の皆さんも、そこから車で2時間半ほどかかる珠洲市の塩田の皆さんも、とにかく真面目に熱心に塩作りに取り組んでいる印象を受けました。地域貢献や伝統文化の継承を掲げる企業理念にもひかれました。ただ、塩は食品衛生法などで品質規格が定められていないため、食品衛生に関する知識や情報が入手しづらく、不安を抱えている様子でしたので、お力になれるのではと感じました。また、微細なマイクロプラスチックをハザードと捉え、対処している感覚もHACCP認証取得のプラスになると考えました。

中巳出 : もう一つ、私がHACCP認証取得に挑戦してみようと思ったのは、スタッフの存在です。今回は文書の作成・管理能力に長けた磯野、塩田を管理し、実際に現場で塩作りを手掛ける浜士のまとめ役となる西花、そしてチームのリーダーとしてプロジェクトを統括する濱田の3人でHACCPチームを組みました。3人が「やります」と言わなければ、私も踏み出せなかったですし、今回のHACCP認証取得は、このチームの勝利以外の何ものでもないと誇りに思っています。
Q : HACCPチームの皆さんは、認証取得に取り組んでみて、どのように感じましたか。

濱田 : 最初は知識が全然ありませんので、髙澤さんから座学でいろいろ教えていただき、食品衛生の基本や法律に関する知識を一つずつ積み上げていきました。要求事項を実際に現場に落とし込んでいく際には、前例のないことばかりなので参考になるテキストもなく、髙澤さんのサポートに助けられました。

西花 : 現場の実情に合わせてHACCPを導入するため、みんなで知恵を絞り、運用を工夫することで、コストを抑えつつ、効果的に衛生管理を行える体制を整えました。例えば、清潔区域に入る前に使うエアシャワーをエアコンプレッサーで代用したり、高額の金属探知機を使わずにハンディタイプのものを用いるようにしたのもその成果です。

濱田 : 取り組みを通して、見える化が進んだことも大きな成果と言えます。今までは日報一つにしても、担当者同士しか分からない暗号のような内容でしたが、HACCP認証取得に向け、文書化を進める中で、業務の内容や進捗などをしっかりと把握できるものになりました。文書の作成・管理や全体のスケジュール管理などは磯野が頑張ってくれました。

磯野 : 最初は知識が足りなくて、髙澤さんに教えてもらったことは全部やらなきゃと頭がいっぱいになっていましたが、徐々に必要なこととそうでないことが判断できるようになりました。私たちがHACCP関連の業務に取り組んでいる分、本社の通常業務は手薄になるのですが、他のスタッフがカバーしてくれて、そういう意味では全社一丸で取れたものだと思っています。

髙澤 : 学んでいただくことが多く、ご苦労されたと思いますが、それぞれの個性と能力を生かした役割分担がうまくいって、HACCPチームが効率的に機能したと思います。改善しなければいけないところを一つ一つ写真に撮って対策を練ったり、取り組みを進めるうち、チームはもちろん、浜士の水上さんらの意識や行動も変わり、最後は本社と現場が一体となって品質を作り上げる体制が整いました。安全安心な塩作りをしていると自信を持って発信できるようになったことはすごくよかったと思います。
Q : CCP(重要管理点)はどこに設定されましたか。

西花 : 3つあります。1つ目は原料となる海水中のマイクロプラスチックを取り除く工程で、4つのフィルターを通して除去しています。2つ目は釜焚きの工程で、しっかり沸騰させて加熱することで微生物によるリスクを排除しています。3つ目は包装工程で、ハンディタイプの金属探知機を使って異物が混入していないか確認しています。
Q : HACCPの認証を取得し、どのような効果がありましたか。

濱田 : 展示商談会などでは、好評価をいただきますし、ブランド価値の向上につながったと感じています。ヨーロッパにサンプルを送ったほか、香港や韓国など、いろんな国からオファーをいただき、商談が進んでいます。

中巳出 : HACCPの認証を取得したことは、当社だけでなく、揚げ浜式製塩法という奥能登の伝統的な塩作りそのものの価値の向上、知名度アップに貢献できたと自負しています。また、後発の塩田にもかかわらず、当社の塩を選んで、応援していただいているお客様にも、喜んでいただけたと思っています。

髙澤 : 珠洲市の泉谷市長にHACCP認証の取得を報告した際、「珠洲の塩を世界に発信できる」と大変喜んでいただきました。石川県の馳知事に報告した際も「若い人につないでいく上で、認証という一つの基盤ができた」と評価していただきました。食品ビジネスや行政の分野には非常に強いインパクトを残したと思います。
Q : これからの抱負をお聞かせください。

濱田 : 今回作ったHACCPシステムを運用しながら、おいしくて安全安心な塩を提供していきたいと思います。決してこれでシステムが完成したわけではありませんので、改善すべきところは改善して、2年目以降は自分たちの力でしっかり運用できるようにしていきたいですね。

中巳出 : 食品衛生管理の国際基準であるHACCPの認証を受けて安全安心を担保している伝統的な製法のおいしい塩が日本にある。そのことが世界に伝わっていくのが私の夢です。伝統だからと進化を怠れば、次代に引き継いでいくことはできません。自然の恵みを生かしつつ、これからも時代に合わせて、塩作りを進化させていきたいと思っています。

髙澤 : 私が調べた限りでは、古式製法の塩作りでHACCP認証を取得した例はありません。さらに揚げ浜式製塩法のブランド価値向上を目指すのであれば、SQF(Safe Quality Food)という認証の取得も検討されてはいかがでしょうか。SQFは食品の安全だけでなく品質を担保する規格です。ぜひ、こうした規格も活用しながら、これからも伝統文化の継承・発展に寄与されることを願っています。


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